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≪音について≫
登美子に騙されるかたちでスキーに行く賢一郎。女が男をオンブしてスキー滑ってる…これはなかなか出来ないぜ、普通。シーンごとに何度か流れるピアノのリズムは、一瞬の楽しい気持ちをよく表してる。ただ、ショーケンが“エンヤトット エンヤトット マツシマ(松島)〜ァノ”と低い声で歌う声が流れると、ムカツキ・苛立ちに包まれる。この声、いつまでたっても耳から離れない。賢一郎が飲みに出かけるクラブでは、赤座美代子(元学生運動家。賢一郎の友人の彼女役)、が『プカプカ』とか、なんともイイ歌を歌っている。陰を陰として大事に扱うことが上手だったあの時代…というわけで、短いけれど大切に見て・聞いてほしいシーンでもある。
≪映像≫
それにしても、場面つなぎが結構強引…。関係あるのか?と思われるような映像が数秒流れ、またさっきの続きが始まったり。印象的なのは、たった一人黙々と無表情で、スタンドを立てた停めたままの自転車をこぐ登美子。そして、何度か流れる赤ん坊の丸い顔に『what to do next』の文字と音声。さあ、どうする、どうする!女の体に、胎児が育つ!見えない間にどんどんと!堕ろしてないぜ、あんた(賢一郎)の子供は! “赤ん坊の映像”が可愛らしいイメージではなく、恐怖心をあおる小道具に大変身。家業のクリーニング店、一着一着に白く細長い伝票が垂れ下がり、その服たちの間を、皮肉っぽい笑いをもって息をしてる登美子―私タチノ、アカチャン。それとは逆に、社長の娘で裕福からくる、自信家の康子―コレカラ、私ダケニシテクダサラナイ?
不安そうな登美子と、賢一郎の苛立ちの中での会話。
「…それとも、最初っから、体だけだった?」
「冗談じゃないぞ、堕ろしてこいよ!」
「ケチ!」
恨めしい目を、男に向けて、最後はもういいとばかりにシャワー室へ駆け込む。二人の浴衣の柄は同じで、布団の上で一緒に寝そべっていても、心と体はバラバラバラ。悲しい。
クライマックス。雪山をオンブし、オンブされで、賢一郎と登美子が苦しそうに歩いて行く…なぜ前に進むのか分からないが、足は勝手に進むようだ。これは二人の行く末、子供の行く末を暗示する。軽々とオンブしてスキーを楽しそうに滑っていた、あの二人は何だったんだ。白トレンチのショーケンと黒のコートの桃井。雪の上を谷底めがけて、喧嘩どころか最後には首を締めながら二人、滑り落ちていく。このシーンは見てるだけでも、寒く恐ろしい。このシーンを撮る時、怪我をしないようにと、岩を取り除いて準備しているのを見ていた桃井が、「早くやってぇ!」と叫んだらしい。私だったら、「命綱お願いします!」と叫んでると思う(なさけねぇ)。神代監督だって、「怪我しないとは限らない状態で撮った」って書いてるし!
ああ、それにしても、ショーケンが細くて、長い足にパンタロンで、白いトレンチコートがよく似合ってて、かっこよすぎる。衿の出し方とか、チョコチョコと手のしぐさにグッと心を捕まれます。アルコールのボトルのキャップを片手で外す時の手もいい。
賢一郎は登美子を殺した後、康子と婚約して、自転車に乗る練習をいっしょにしたり、足をくじいた壇ふみをオンブして楽しそうにしてる…幸福と不幸の間をシーソーのように行き来して、最終的には警察に犯人として認識される。手がかかる直前、賢一郎はアメフトをしていて、派手な音を立てて首の骨を…幸にも死んだか、重体か…で、エンドロール。
原作では捕まって塀の中で「腹の子供は自分の子ではなかった」ことを知らされる(映画でも、警察はその事を喋っており、観客にのみ知らされる)。映画と原作、死と生で大きな違いはあるが、これは原作内で書かれていた、“司法試験の出題”を思い起こさせる。 ―「死刑廃止論と存続論の比較と得失を論ぜよ」…って、人生2度の経験のような。原作者、石川達三は映画を見て、原作との違いに怒ったらしい。ほら、でも、こんなに原作を上手く使っているではありませんか。賢一郎の死をもって死刑論を映像化…かな。
しかし、あの首の骨が折れる音、クスリと笑ってしまう。原作で、賢一郎(いわゆる男)は頭のなかで常に考え事をしていたりするせいで、女より優位な感じを受ける。だけど、「食べる?」と八朔か何かを連れ込み宿(古い!)で剥く女(映画内の登美子)と、みかんを電車のなかでイタイケに食べる女(原作内の登美子)と、何の違いがあるだろうか。柑橘系果実を男はあまり喜ばない。どっちにしたって、男に見つめられることを希望した行為。視線を絡みとることに成功した女は、腹の子供とともに、最後まで嘘(アナタノ子供)を孕みつづけ、男の運命まで絡みとってしまった…しかし、不幸。
30年以上の時間を空けて、私の部屋の壁には『青春の蹉跌』の角張った太文字がでかでかと縦に書かれた、当時のポスターが貼られています。ショーケンの額に丁度割れたガラス…デザインがすごくいいなと感心であります。
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