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  しゃべる蒲鉾

第一話
「冷や酒でも飲んじゃってェ。」
と、歌うように軽々と杯を重ねていく。その合間に、深々と煙も飲んでいく。
目の前の女は私の母親…。
この人は、私が4歳の時から“母親”になったわけだが、早いものでもう十五年も一緒に暮らしている。
「キョウ子ちゃん」も飲まないの?」
飲みたくないから飲みませんし、オトナでないのでいりませんーなんて素直な返事ができないので、
「…不良娘…。」
その言葉とともに、ギロリとした視線を煙に邪魔されながら送ってみた。
子供の私が、親(偽だけど)に向かって言う言葉とも思えないが、それでもこの女にはピッタリな形容詞だ。

「いつもお猪口で飲んでいると、あいつのこと思い出す。」
全く私の視線なんて無視で、母はしゃべり始めた。

−『酒はないのか』ってあいつが言うから、茶色の一升瓶、流しの下から出したのね。
つまみはイカかな?と思って探したんだけど、生イカどころか、ソフトイカもイカ薫も無い。しょうがないから、よっちゃんイカだっけ?あれ出したら、怒られちゃって…



「バカじゃないの?」だいたいイカでできてないじゃん。

−っるさい!でね。“板ワサ”出せっての。あるわけないじゃん、普通。しょうがないから、つっかけはいて、お財布だけもって、坂ダッシュしてぇ…ちょうど住んでた部屋、川沿いで、坂になっててね、下にちっちゃい商店があったのさ。で、そこに…でもあそこ生ワサビでなくて、チューブワサビになっちゃたけど。で、本命の鱧板と、あと焼色のない白のおさしみ蒲鉾買ったの。…買い終わったら急にほっとしてさぁ、そしたら何かね、食べたくなっちゃって、帰る道々かじった−しかも、高いほうの鱧板。

そこまで言うと、またグビッっとひとすすり。
私は、坂の下から蒲鉾をかじりながら、それでもスタスタと部屋へ上がって行ったであろう母の姿を想像して、めまいがした。
「女優なのに…食いついてきたわけ?!」

-つづく-